『父の日に(言葉のプレゼント)』
ペンネーム:紫乃夫
『母の日』にプレゼントをした記憶はあるが、『父の日』に何かを贈った記憶があまりない…。短い電話を一本、ちょっと照れくさいが「今日は『父の日』だね」と伝えて何気ない会話をして電話を切る、これが何年も続いている。男同士だから、こんなものだと変に納得してしまっている。
子供の頃から、職場と自宅が同じだったので、僕は父の仕事をする姿をそばで見ることが多かった。その姿が格好良く見えて大好きだった。母も父の仕事の偉大さを何度も僕に話してくれた。尊敬する人は誰?と人から聞かれると、即座に「父です」と答えていた。
「就職はおまえの好きにしたらいいよ」としか父からは言われていない。時はバブル絶頂期、大手企業何社からも誘いがある中、僕は父と同じ仕事を選んだ。大学4年の春、東京で一人暮らしをしていたころ父に電話で伝えると、「そうか、分かった」という電話越しに、父のうれし涙が見えたような気がした。父は停年退職し、今は父の分までがんばってみようと思っている。
そんな僕も中年となり、今では高校生と中学生の娘が、思春期真っただ中だ。世に言う父親を「汚がる」「うざがる」年頃かもしれない。
「うちの娘はそんなことない、大丈夫だ」と訳もなく自信を持っているが、やはり時には心配にもなる。娘たちは、僕のことをどう思っているのだろうか…。
その不安をきれいに取り除いてくれる日が年に二回ある。それが僕の誕生日と『父の日』だ。娘は二人とも寮生活をしているが、この日は必ず手紙かメールが届く。
その中に、二人とも毎回必ず書いてくれる言葉がある。
「パパ大好き」
たった5文字だけど…。僕にとっては最高の『言葉のプレゼント』だ。
今年ももうすぐ『父の日』がやってくる。僕にとって大事な5文字。今年ももらえるだろうか。そんなことを考えながらふと思った。僕は父に何か言葉のプレゼントをしたことがあっただろうか…。
「大好きな父へ、心から尊敬してます。いつもありがとう」
ちょっと照れくさいが、今年は電話ではなくて、こんなメールを送ってみよう・・・。